YNUプラウド卒業生文庫 中西 準子
中西 準子(なかにし じゅんこ)
圧力や批判から絶対に「逃げない」姿勢で、分かりやすい「リスク評価手法」の確立に現在も尽力
経歴
1938年5月30日 | 大連市生まれ |
1957年 | 神奈川県立湘南高等学校卒業 |
1961年 | 横浜国立大学工学部化学工業科卒業 |
1967年 | 東京大学大学院化学系研究科合成化学専攻博士課程修了(工学博士) |
1967年 | 同大学工学部都市工学科助手 |
1990年 | 同大学環境安全センター・工学系大学院都市工学専攻課程助教授 |
1993年 | 同教授 |
1995年 | 横浜国立大学環境科学研究センター教授 |
2001年 | 同大学大学院環境情報研究院教授 産業技術総合研究所・化学物質リスク管理研究センター長 |
2004年 | 横浜国立大学退官 |
2008年 | 産業技術総合研究所安全科学研究部門長 |
2011年 | 横浜国立大学名誉教授 産業技術総合研究所フェロー |
2015年 | 同研究所名誉フェロー |
主な受章・受賞歴等
1980年(昭和55年) 藤田賞
2003年(平成15年) 紫綬褒章
2008年(平成20年) 横浜文化賞(学術)
2010年(平成22年) 文化功労者
2013年(平成25年) 瑞宝重光章
2021年(令和3年) 日本学士院会員
その他、環境科学会学術賞、日本リスク研究学会学会賞など多数
業績
中西準子氏は、ダイオキシンやビスフェノールAなどに代表される外因性内分泌かく乱物質(環境ホルモン)や、福島第一原発事故由来放射線物質、豊洲のベンゼン騒動のような土壌汚染等、現代社会に根付く多くの環境問題にどう向き合うべきか、長きに渡る研究に基づくリスク論を確立し、環境行政に対して冷静沈着にして的確な指導や提言を行い社会を動かしてきた。
1967年、東京大学工学部都市工学科助手となり汚水処理や下水道計画の研究を開始。
1971年、東京都板橋区浮間下水処理場や足立区小台下水処理場等を調査、下水道行政の誤りを厳しく指摘。
1980年代、ライフワークとなるリスク研究を開始し、米国で「発がんリスク」という指標が使われていることを知る。
1988年、ミシガン州立大学の客員教授として渡米し、米国で有害化学物質による生態系や人の健康への影響を知る。
1990年、シロアリ防除剤について、発がん性と神経障害という二つのリスクを、それぞれ「損失余命」という尺度で表し比較。その結果、発がん性のあるクロルデンという物質よりも、神経障害を起こすクロルピリホスという物質のリスクの方が大きいと結論に達する。
1993年、女性として開学以来初めて東京大学工学系教授に就任。
1996年、種の絶滅確率を指標に化学物質のリスクを研究開始。
1997年、東京湾や水田、畑などの泥を分析するうちに、ダイオキシンはCNPという農薬(除草剤)に含まれていたことを発見。
2005年、有害物質のうち、生産量の多い25の物質をリスク評価する研究をまとめた「詳細リスク評価書 第1巻」(シリーズ25巻)を発刊し、後に産総研理事長賞を受賞。
2021年、「自然や人間活動に起因する環境変化が人の健康リスク・生態系存続のリスクなどに与える影響という深刻な問題に1960年代より取組み、世界に先駆けて『環境リスク管理学』を樹立、総合的環境評価と、健康リスクには損失余命、生態系リスクには種・群の絶滅確率の科学的データに基づく総合的影響評価との定量的関係を求めることに成功した。この結果、従来の個別領域の評価にとどまらず、多様な原因を総合して評価することにより、広く環境政策に貢献した。」として日本学士院会員に選出。
主な著書
- 「都市の再生と下水道」日本評論社,1979
- 「下水道 : 水再生の哲学」朝日新聞社,1983
- 「ちばの水 : 水循環と個人下水道」ちば・せっけんの街会議,1988
- 「日本の水道はよくなりますか」亜紀書房,1988
- 「飲み水が危ない」(岩波ブックレット)岩波書店,1989
- 「いのちの水 : 新しい汚染にどう立ち向かうか」読売新聞社,1990
- 「東海道水の旅」(岩波ジュニア新書)岩波書店,1991
- 「下水道とパブリック・マネー : 自治体の下水道計画と財政政策を点検する」(自治総研ブックレット)地方自治総合研究所,1992
- 「水の環境戦略」(岩波新書:新赤版)岩波書店,1994
- 「環境リスク論 : 技術論からみた政策提言」岩波書店,1995
- 「アマゾン川流域における水銀汚染に関する研究」,1999
- 「環境リスク学 : 不安の海の羅針盤」日本評論社,2004
- 「食のリスク学 : 氾濫する「安全・安心」をよみとく視点」日本評論社,2010
- 「リスクと向きあう : 福島原発事故以後」中央公論新社,2012
- 「原発事故と放射線のリスク学」日本評論社,2014
その他、共著等多数あり